【第517号】令和6年1月

≪ 空飛ぶクルマ eVTOL=Electric Vertical Take-Off and Landing ≫

eVTOL・イーブイトール・電動垂直離着陸機は、垂直に離着陸するヘリコプター・ドローン・小型飛行機の特長を併せ持つ電動機体を指します。
政府は2032年の市場規模を5兆円と見なし、安全運航へ制度整備を始めます。
ヘリコプターは高度300m-数千mを飛行、ドローンは0-150m、eVTOLは高度150m-数百mを飛行します。

日本勢で開発をリードするのが2018年設立の「スカイドライブ社」です。
愛知県のトヨタ自動車出身で創業メンバーの福沢知浩CEOは移動革命を起すと意気込みます。
初の商用機「SKY DRIVE」は3人乗りで、自動車の車検に相当する耐空証明を2025年に取得する目標を掲げます。
生産面ではスズキと提携し、同社の工場で年間100機の製造を目指します。
SKYDRIVEが追求するのは機体の軽さで、航空機にも使用される炭素繊維複合材を採用し重量は1.4㌧で中型ヘリコプターの半分程度に抑えます。
一般的なビルの屋上からの離着陸を想定しており、12基のローター(回転翼)を同一平面上ではなくドーム状の曲面の上に配置します。
前進時には機体後方のローターに負荷が集中するのを防ぎ、電力効率を最適化に出来ます。
ローターを支えるフレームの形状は厳選され特許を取得しました。

現在都内の空の移動はヘリコプターが担っていますが、離着陸の拠点となるヘリポートの規制は多く、またエンジンで大型ローターを回すために騒音も大きく、国内の航空法ではビルの谷間での飛行は原則禁止です。
ヘリコプターは大型のメインローターが回転して機体を上昇させる揚力を生みだし、後部に設置された小型のテールローターに機体の方向を調整します。
これらのローターの動力は「ターボシャフトエンジン」と呼ばれる燃料エンジンが使われます。
一方、eVTOLは多数の小型ローターが左右の翼に設置されておりドイツ・Lilium社のeVTOLでは合計30-40基のローターが設置されます。
Lilium社は日本の㈱デンソーの電動モーターを採用しております。

eVTOLの歴史は仏・パロット社が2010年にマルチコプター型ドローン/AR.Droneを発売したことで始まり、電動で垂直離着陸ができることで広く普及します。
eVTOLの航空機という概念は2011年に米国のAgustaWestlandoProjectZeroや独国のVolocopterVC1等を通して現れます。
2014年米国で開催されたワークショップのNASA・米国航空宇宙学会等で紹介されております。
ドローン型のeVTOLのメリットに気付くと世界中の各社が人を乗せるeVTOLの開発に乗出します。

eVTOLの実用化を進める主な機体メーカーには、米国Archer Aviation社が2018年設立2021年上場し、ユナイテッド航空から200機受注。
米国Joby Aviation社は2009年設立、2022年10月日本の国土交通省に型式証明申請があり2023年上場します。
米国Beta Technologies社は2017年設立し、貨物向け機種ALIA-250Cは5700㍑の収納が可能で米国物流大手UPSから150機受注します。
ブラジルEVE Urban Air Mobility社2020年設立、2021年上場、2023年ブラジル国内でeVTOL工場建設を開始しました。
ドイツLilium社は2015年設立、2021年上場、ブラジルの航空会社から220機受注。
英国Vertical Aerospace社は2016年設立、2021年上場、アメリカン航空から1000機受注。
中国EHang社は2014年設立、2019年上場、2019年61機、2020年70機のeVTOLを販売しております。

機種「EH216」は最大速度150km、航続距離70km、機体価格は2020年時点で33,6000㌦、個人向けの受注機は数百機。
日本のSkyDrive社は2018年設立2020年に機種SD-03のデモフライトに成功しております。
特に人口密度の高いアジア市場での注目が強くベトナムや韓国から予約が入っております。
世界では28社が電動垂直離着陸機の開発に取組中です。

米Joby Aviation社は2023年11月NY州マンハッタンで空飛ぶタクシーeVTOLを運航しました。
ウォール街からJFK空港まで7分移動(タクシーは1時間以上)でき、料金は1席200㌦でタクシーとほぼ同額です。
また充電時間は5分で完了します。

日本政府はSky DriveのeVTOLを2025年開催予定の大阪万博での本格導入を目標する方針を立てています。
万博会場の夢洲(ゆめしま)と関西空港や神戸空港をつないで来場客をタクシーで輸送する構想が有り、そのご大阪市街地や湾岸周遊など拡大する計画です。

実用化に向けた課題は ①軽くて高容量の電源を確保する為のバッテリー技術の進展と。②機体の軽量化です。
これらを叶える為リチウムイオン電池より高容量、高出力を実現する。

全固体電池の実用化や軽くて強度の高い炭素繊維強化プラスチックを材料とする機体の開発が待たれます。
eVTOLの主要な部品であるモーターや機体の素材は、航空機や自動車産業で培った日本の技術が生かせます。
デンソーがeVTOL向けに開発したモーターが独・Lilium社に採用されました。
このモーターは米国重電大手ハネウェルと共同開発したもので、重さ4㎏ながら普通自動車ガソリン車なみの136馬力の出力があります。
主要部品には熱伝導性の高い樹脂材料を使って冷却性能を高めて軽量化につなげました。重量1㎏当たりの出力は従来のモーターの数十倍になります。
独・Lilium社が開発中の7人乗り「リリウム・ジェット」は、ダクトの中のプロペラがジェットエンジンのように空気を噴射して推進力を得ます。
30のダクトに一つずつ高出力モーターを配置することで200㎞以上の航続距離を目指します。

炭素繊維の世界シェア一位で航空機分野を得意とする「東レグループ」は、eVTOLの分野でも先手を打っておりトヨタ自動車の出資を受ける米/Joby Aviation社と素材の供給契約を結び、日本のSky Drive社とも炭素繊維複合材の共同開発に着手しております。

NASAは2004年に軍用として利用されてきた無人航空機を産業用に利用する提案をして、世界で「空の産業革命」を提唱しました。
NASAの提唱したPAVは交通渋滞の無い、環境にやさしい「スマートシティ」の実現の為の最重要手段である都市型交通(Urban Air Mobility=UAM)と表現され国際標準用語となります。

2023年6月パリで開催された「航空・宇宙機器見本市」では無人航空機とeVTOLに関する新製品が多数出典されました。

滑走路を不要とする「垂直離着陸機=Vertical Take-Off And Landing=VTOL」は「電動」が主役であることを強調して 「eVTOL」となります。