【第518号】令和6年2月

≪ 内航船・フェリーの無人運行 ≫

2019年度の国内貨物輸送の内訳は、自動車・52.9%、内航海運・42.0%、鉄道・4.9%、航空・0.2%で、内航海運は自動車・トラックに次ぎます。
船や鉄道の自動化が進むのは、少子高齢化による人手不足への対応に加え安全性の向上につなげる狙いもあります。
内航船では海外の船員を起用出来ず、慢性的な人手不足で船員の約5割が50歳以上と高齢化が進んでおります。
労働環境も特殊で3カ月間乗船し1カ月間休む勤務体系が一般的で、短期間で辞める若者が多いといいます。

海運事故は人為的なミスによるものが8割を占めるといわれ、自動化すれば抑えられます。
日本郵船などはまず内航船での無人運航技術を確立し、次いで世界を運行する外航船へ拡げようとしています。
自動運転の実用化へ向けたルール作りも始まり、国際海事機関・IMOは今春ルール作りを進める作業部会を設置しました。
安全の指針作りを進め、関連条約を改正し2028年発効を目指します。
船舶での自動運転の導入には課題山積で、信頼できる通信インフラの確保が必要不可欠で緊急時には一瞬の通信の乱れが命取りとなります。
日本郵船は人工知能・AIの発達で自動運転の実証実験に成功、【2025年までに無人運航船の実用化】を目指し2020年から74億円の助成金を出して支援しております。

2022年2―3月期には日本郵船や傘下の日本海洋科学など30社が共同で、全長95mのコンテナ船「すざく」で東京湾と三重県津松坂港を自動運転で往復する実証実験をしました。
2月26日東京・江東ターミナルを出港、「すざく」は18台のカメラ等で周囲の状況をAIで把握しながら運航します。
東京湾は一日500隻が運航する世界で最も過密な航路ですが無事通過します。
陸上からは人工衛星と携帯電話回線を使った複数の通信手段で船の状態を把握し、遠隔で監視、操縦できる態勢を敷きました。
船内には万一に備え乗員が乗っておりますが、27日津松坂港に到着、28日同港を出港し3月1日に東京湾に無事寄港、往復約790㎞の無人航海を終えます。
漁船が何度も接近し、安全運航には船長が「人が運転した方が良い」と判断した場合を除き自動運航し、往路は97.4%、復路は99.7%が自動運転でした。

2022/04社内報⇒ 商船三井と日本財団は苫小牧―茨城県・大洗間でフェリーの無人運航実験を行っております。
実際に同航路を運航する「さんふらわ・しれとこ11,400㌧、全長190mに自律操船制御システムを組み込んで実施しました。
日本郵船に先立つ2022年2月6日夜にフェリーは苫小牧港を出港し、約700㎞を航行して7日夕方に大洗港に到着します。
航行時間は約18時間で通常の商用運航とほぼ同じでした。風向きや潮の流れ、船の位置情報から最適な航路を検出し、センサーで周囲の漁船を検出して衝突を回避します。
万が一に備えて船員は乗りましたが、長距離内航船の無人運航は世界初です。

新日本海フェリーと三菱造船のプロジェクトでは、全長約220mの大型フェリーで新門司港から瀬戸内海西部の伊予灘間の往復・約240㎞を約7時間で自動運航しております。
時速50㎞の高速運行や、船首を回したり後進したりする難しい離着岸にも成功しております。

日本財団では2040年に50%の船舶が無人船に置き換わると見据え、無人化の設備投資や生産性の向上などで年間1兆円の経済効果があると試算します。

海外では小型船舶でより長距離の自動運航に成功し、2022年6月1隻の小型船舶が英国の港から40日間の航海を終えてカナダ東部のハリファックス港に到着。
この船は全長15m、幅6mの船の名前は「メイフラワー自律運航船・MAS」で乗員はおらずAIが操縦しました。
この船は米国・民間研究機関「プロメア」が設計し米・IBMが協力して2年がかりで開発しました。
他の船やクジラなど海洋生物の障害物を機械学習で学び、波や風で揺れていても認識可能です。
AIを搭載した6台のカメラと30台以上のセンサーを持ち、人の介入なしに刻一刻と変わる環境に対応します。
MASは調査船で、海水中の成分や温度などの情報を集め、音響センサーでクジラの生態などを調べます。
「プロメア」は地球温暖化や海洋生物の生態などの研究に使いますが、培った技術の応用は幅広く、IBMでは海運、エネルギー、漁業や水産養殖など海洋関連産業を変革すると期待します。

鉄道も運転士や線路保守作業員などの確保や養成が困難となり、自動運転の導入が求められており、JR九州では在来線で実証実験に取組み、2022年3月から福岡市内などを通る全長約25㎞の香椎線全線で毎日上下77本の自動運転の実証を進めています。

≪ 川崎近海汽船・ほくれん丸の自動運航 ≫

川崎近海汽船の大型RORO船・第二ほくれん丸(11,413㌧‐トラック・160台、乗用車・100台搭載)の無人運航船プロジェクトにおいて,船上システム単独機能で構成する自動運転運航システムの実証実験に成功しました。
2023年10月1日から全3航海で茨城県・日立港と北海道・釧路港間の往復1600㎞で、営業運航の中で実施しました。
自動運転システムを搭載し、通常の乗組員による運航体制を維持した状態で認知、分析、判断が高い精度で実行されることを確認しました。
他船を避ける場面では、安全に避けられるルートを提案して操舵制御を行いました。
自動運転システムが正常作動する運航設計領域と設定した海域で、システム稼働率は平均96%を達成しました。

JR貨物の長万部―函館間の利用。不採用の結論は2025年までとされましたが、内航海運の自動運転は2025年を目指しておりますので、自動運転が現実すればJR貨物は内航海運に代替えされるでしょう。
【 第二ほくれん丸 】 北海道で収穫される農畜産物の内7割が本州へ輸送されております。
その一端を担うのが釧路―日立航路を運航する、大型RO-RO船のほくれん丸です。

釧路を18時に出港し翌日14時に日立港に到着します。
道東各地から釧路港までの陸送距離は富良野・230㎞、帯広・120㎞、北見・140㎞、網走・150㎞、斜里・130㎞、中標津・90㎞、根室・130㎞で、ジャガイモ、玉ねぎ、生乳、鮮魚などがJR貨物の代替え輸送の役割をはたします。
主な貨物の生乳輸送は生乳コンテナで輸送し、戻りは空コンテナで返送されて片道輸送でも採算はとれているので他の農産物も片道輸送で十分採算はとれます。
JR貨物の貨車は50車/日運航されますが道産ジャガイモの4割、玉ねぎの6割が貨車輸送です。
函館―長万部間は30年間で744億円の赤字といわれます。
第三セクター移管後に貨物運賃の値上げまたは、赤字補てんを政府の税金で賄うことは可能でしょうか。