【第512号】令和5年8月

≪  トヨタとダイムラー・トラックの資本提携  ≫

トヨタ自動車とEVトラックで先を行く独ダイムラー・トラックは商用車分野で資本提携すると発表しました。
トラックとバスのCO2排出量は自動車全体の4割を占めます。

トヨタ傘下の日野自動車とダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バスを経営統合して電動化や自動運転など「CASE=情報通信技術・自動運転・シェアリング・電動化」技術を共同開発します。
トヨタとダイムラーは持ち株会社を2024年に設立し、日野と三菱ふそうが傘下に入ります。
トヨタとダイムラーの出資比率は同じ割合とし、統合後には日野はトヨタの連結子会社から外れます。
2021年のダイムラーの中大型トラック販売台数は36万5000台で中国第一汽車の37万5000台に次ぐ世界2位、日野は15万台なので統合により世界最大の規模となります。

いすゞは2019年にUDの買収を発表、2021年にトヨタは5%出資して資本提携しております。
トヨタと日野自動車、いすゞは電動化・商用車を開発する「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー=CJPT」を共同出資で設立します。
その後スズキとダイハツ工業が参加しますが日野自動車は除名されております。

2022年3月日野自動車の排ガスデータの改ざん、排ガス試験の過程で従業員が意図的に装置を取りかえるなど悪質な手口が発覚します。
国土交通省は立ち入り調査し、日野自動車の国内出荷を停止します。
日野自動車の2023年3月期決算は、エンジンの排出ガスや燃費性能の試験データ改ざんなどの不正が響き三期連続1176億円の赤字となりました。
商用車業界では電動化を含む次世代技術・CASEへの対応での連携が不可欠となります。

親会社のトヨタは日野自動車の再建に外部資本の受入れを決断しました。
現在トヨタは50.1%出資しておりますが2024年末にも予定する三菱ふそうとの統合後、日野自動車はトヨタの子会社ではなくなります。
日野がトヨタと業務提携したのは1966年、この時日野は乗用車部門から撤退しトラックやバスに転換します。
2001年トヨタは日野の株式を過半数取得して子会社とします。
トヨタは日野自動車を支えるのは限界で、どこかと統合せざるを得なくトヨタが出資するいすゞではなく三菱ふそうでした。
三菱ふそうの株式は89.29%をダイムラー・トラックが所有し残り10.71%を三菱グループが所有しております。

昨年の売上高509億ユーロ(7兆6400億円)のダイムラー・トラックのダウムCEOは東京都内の会見で、脱炭素化に向けて「バッテリー・燃料電池・水素エンジンなどの開発を全て同時に行うのはこの業界のトップ企業にとっても非常に難しい。
この同時並行の技術開発を経済的に成り立たせるには一つしかない。
経営統合による規模の経済、スケールこそが鍵」といいます。
トヨタの佐藤恒治社長は、「水素領域の取組みは豊かなモビリティ社会を実現する為に今後は4社で力を合わせて協力していきたい。」
三菱ふそう単独売上高6993億円、日野は連結決算売上高1兆5073億円でインドネシアなどに商権をもちます。ダイムラー・トラックにとってアジアに強い日野自動車は大変魅力的です。

トヨタ自動車の佐藤恒治社長、ダイムラー・トラックのダウムCEO、日野自動車の小木曽聡社長、三菱ふそうトラック・バスのデッペンCEOの四人は、5月都内で記者会見しております。

Q トヨタとダイムラー・トラックの協業の経緯を教えてください。

佐藤社長=カーボンニュートラル(CO2を全体としてゼロに)やCASE普及に向けて、大きなスコープ(領域)で話合いを続けてきました。
今回の統合という形も含めて、四社の連携により更なる世界的規模のスキューム(枠組み)となったのが経緯です。大きな連携の中で大きな未来を実現出来ます。

ダウムCEO=最初に将来のビジョンで共通点があった。
カーボンニュートラルを達成するにはトラックに技術が必要で、技術開発を強化する為にスケールを拡大します。
カーボンニュートラルに一番必要な水素も促進出来ます。

Q トヨタはいすゞ自動車とも資本提携していますが。

佐藤社長=いすゞと今後もしっかりと協業を続けます。CASEの技術は規格、規模、インフラなど多面的に取り組む必要があり、いすゞも含めた大きな連携でCASE普及を加速したい。

Q 三菱ふそうと日野自動車の統合でどのようなシナジー効果が期待できますか。

デッペンCEO=東南アジア市場でシナジー、複数のモノがお互いに作用しあい、効果や機能を高めることがあります。
三菱ふそうと日野の二社には、強いブランドとネットワークがあり、サービス網も強い。補完し合って競争力を高め、厳しい東南アジアで戦えます。

小木曽社長=カーボンニュートラルに向け、水素・燃料電池・内燃機関・合成燃料など色々検討しており、二社だけでなく四社で枠組みを作ってカーボンニュートラルにつなげていく。

Q 統合会社のスキームを教えてください。

佐藤社長=統合後の新会社は日野と三菱ふそうが統合し、持ち株会社を設立して上場します。

この下に100%子会社として両ブランドがそれぞれの競争力を磨いていく。競争・成長という所は、公平で公正な競争があればこそというのが大前提です。

ダウムCEO=日野と三菱ふそうは成功してきた日本のブランドです。二つのブランドを維持したい。
最大限のシナジー効果を実現する為に開発・調達・生産などは共通化します。日本の商用車メーカーとしては最強になります。

Q 日野はエンジン不正問題をおこしています。

小木曽社長=カーボンニュートラルの備えは個社だけでは描き出来ません。そのなかで四社の話がありました。不正問題には一つ一つ対応してまいります。

Q トヨタが日野の出資比率を高める選択肢もあったと思いますが。

佐藤社長=日野に就いては経営の根幹である商品、クルマ作りの部分でトヨタの持っているノウハウを活かすことが難しい。
これまでも日野との関係を悩みながらより良い関係をつくろうとしてきましたが、我々が日野を支えるには限界があると正直思っています。

我々に無い強みをダイムラー・トラックと三菱ふそうに借りながら、よりよい日野を作っていきます。