【第511号】令和5年7月

 ≪  鈴木修(93歳) 相談役 と SUZUKI  ≫ 

スズキの世界での新車販売台数は2021年4月から2022年3月まで270万7千台です。
インドでは50.4%の136.5万台売れますが、日本では56.1万台でインドの半分以下です。
1981年スズキは米・GMと業務提携をします。
当時鈴木社長は「GMはクジラでスズキはメダカ。いざという時呑み込まれないよう蚊のように飛んで逃げる」と談話します。

同じ頃インドのクリシュナムルティ氏(初代マルチ自動車社長)は、自動車メーカーのパートナー探しに来日。各社に打診しますが鈴木社長に会う為、浜松のスズキ本社を訪れます。
スズキは1979年小型車初代アルトを47万円(当時軽の相場60万円)で発売しており、二輪と軽自動車のスズキは、発展途上国・インドとの提携を積極的に受け入れます。

1982年インド政府(74%)とスズキ(26%)が出資するマルチウドヨグ社を設立します。
1985年には日本の旧アルトを「マルチ800」としてインド市場で発売開始、1988年低燃費・低価格・信頼性が認められます。
予約・手付金の販売方式は、マルチウドヨグ社に運転資金が入ります。生産量を超える10万台の予約が入る大好評で抽選による引渡となりました。


1991年インド政府の自由化政策により、1992年スズキの資本金は50%となります。
2002年スズキは出資比率を54%に引上げマルチウドヨグ社はスズキの子会社になり、2007年にはインド政府がスズキの全保有株を手放して完全民営化となります。
マルチ1000、ジプシー、ワゴンRと続く新車販売で、スズキのインドシェアは2009年に45%を超えます。
日本でも2009年7代目アルトを73万円で発売、アルトシリーズは30年を超えます。

2003年米・証券会社ゴールドマンサックス社は将来的に高成長が見込まれるBブラジル・Rロシア・Iインド・C中国をBRICsと命名し、2050年の経済をGDP 1位中国44兆㌦、2位米国35兆㌦、3位インド27兆㌦、4位日本6兆㌦と予測しました。

2008年世界のカーシェアは 1位トヨタ・897万台、2位GM836万台、3位VW623万台、4位日産ルノー609万台、5位フォード540万台、6位現代自動車420万台、7位クライスラー416万台、8位ホンダ378万台、9位仏PSA326万台、10位スズキ236万台でした。

2008年スズキは経営破綻する米・GMとの資本提携解消を発表すると、独・VWはスズキの持つインド市場と日本や中国の市場を見据え、今が絶好のチャンスと読み提携を申し出ます。
VWヴィンターコーン社長は「この提携は合併ではなくパートナーシップ」といい、鈴木社長は「燃費効率の開発が遅れており、環境車の共同開発が必要なのでわが社の強みと弱みが補完できる。」と発表します。
2009年12月GMから買戻した19.9%のスズキ株を独・VWへ譲渡して包括提携に踏み切り、VWがスズキの筆頭株主となります。

イコールパートナーを揚げるスズキに反して、VWの目的はスズキの支配・子会社化でした。
スズキはVWの持つ環境技術、ディーゼルエンジン技術、ガソリンハイブリッド技術。一方VWはスズキの低価格と低コストですが、VWからスズキへ技術的情報は一切遮断され、提携後すぐに生じた不信、対立は紛争に至ります。

スズキを子会社化するVWに対抗して、2011年9月鈴木修社長は資本・業務提携の解消を申し入れます。
10月VWはスズキ株の売却を否定、11月スズキは国際仲裁裁判所に申し出ます。

2015年4月VWのディーゼル排ガス不正問題でピエヒ会長が失脚すると、8月両社は国際仲裁裁判所の結果を発表します。
「包括提携の解除を認める。」「VWが保有するスズキ株の売却を認める。」スズキは四年に渡る紛争でVWの持つ株を5千億円で買い戻すことができました。

2009年経営破綻し政府資本を受け入れて解任されたGMワゴナー元会長を鈴木社長が訪れます。
スズキに対して紳士的対応をしてくれたことに「29年間大変お世話になりました」と感謝の言葉を伝えます。
VWとの提携ではスズキと同じ発展途上国へ進出しており、中国では13.4%のシェアを持ち、ブラジルでは22%のシェアを持つ世界シェア3位の大企業です。

VWも当然GMと同じ紳士的対応の会社、と判断した鈴木修社長の大誤算でした。

2016年10月スズキはトヨタと業務提携に向けた検討を始めます。
スズキがまだ自動車部門に参入していない1950年、労働争議で資金難となりトヨタに融資を願い役員を受け入れております。
1976年の軽自動車排ガス規制では、トヨタにエンジンの技術を要請しておりトヨタには二つの恩義がありました。

2017年業務提携に向けた覚書を締結し、以後具体的内容の検討を続けます。
トヨタの持つ電動化技術とスズキの持つ小型車技術を持ち寄り、商品補完を進めるに加え、商品の共同開発や協業化に取り組むことを発表。2021年鈴木修は会長を辞任し相談役となります。2022年インドの全新車販売台数は、日本を抜いて世界3位となりました。

しかしインドの自動車保有率はまだ3%と低く、14億人の世界一となるインドで中長期の自動車産業は非常に高いと見込まれます。
スズキのインド子会社「マルチ・スズキ」は2021年に西部グジャラード州の工場の生産能力を増強し、ここを電気自動車・EV専用工場に決めます。
さらに北部ハリヤナ州に1800億円を投じて新工場を建設、2025年稼働すると100万台の増産となります。
2023年1月スズキは2030年度に向けた成長戦略を発表します。その中で4輪車のBEV(バッテリー電気自動車)の投入が公開され、日本では2023年度に軽商用BEVを投入することを発表しました。軽商用BEVを皮切りに小型SUV・軽乗用なども予定し、2030年度までにBEVを6モデル展開。
軽自動車や小型車向け新型ハイブリットを開発して多くの選択肢を提供していくと発表しております。

欧州市場でも2024年度よりBEVを投入し小型SUVなどに広げていき、2030年度までに5モデルを展開します。
インド市場ではインド・デリー近郊で開催された「AutoExpo2023」で発表した電気自動車 eVXを、スズキのEV世界戦略車第一弾のコンセプトモデルとして2025年度までに市販化を計画しています。
スズキのインド子会社マルチ・スズキ・インディアのブースで世界初公開されている eVXのボディサイズは、全長・4300×全幅・1800×全高1600で電池容量は60kWh、航続距離は550㎞です。

2007年3月決算で売上高3兆円を確定する1月、札幌で新春講演会が開催されました。二千人の財界人の集まるなか鈴木修社長は、私は中小企業のおやじです。

車名・アルト(イタリア語・最上級)を「あると便利」と覚えてくださいと、おやじギャグで締めました。