【第500号】令和4年8月

 ≪ 戦後日本 の 海運業 ≫ ⇒ ≪ オーシャン・ネットワーク・エクスプレス ≫

第二次大戦後に米ソの冷戦が激化すると米国は、日本を反・共産の防波堤にすべきであるとし、日本経済を自立させる方針に変えます。昭和23年日本への物資供給や、民間貿易の許可など対日政策が緩和されます。

海運大手の日本郵船・大阪商船・三井船舶・川崎汽船・飯野海運・日東商船・山下汽船・三菱海運・大同海運・新日本汽船・日産汽船・東邦海運・日鉄汽船の十三社へは、昭和22年から昭和37年までの「計画造船」で国家資金が個々の企業に割当てられ十三社は定期航路を独占し全船舶の八割を占めます。

昭和25年6月朝鮮戦争が勃発し世界規模で船腹不足を招くと、昭和26年GHQは外国定期航路の開設を認可し日本の外航進出は本格化します。昭和26年9月日本と米英仏ソなど連合諸国とのサンフランシスコ講和条約締結の直前に、米・副大統領バークレーは「日本を再建させることは米国の防衛上も必要である。日本の再建には経済の再建以外になく日本経済の再建の為には海運の再建しかない。」と連合諸国へ訴えます。

9月8日サンフランシスコ講和条約の調印式で日本は待望の主権を獲得します。

昭和26年12月日本郵船の欧州同盟(国際カルテル)加入が認められ、三井船舶は日本郵船の傘下で欧州同盟に加盟します。昭和27年日本はIMF(世界銀行)に加盟し国際社会へ復帰、昭和30年にはGATT(自由貿易)加盟国となります。昭和28年2月には大阪商船も欧州同盟加入認められます。このときに三井船舶は三井物産の専用船社とみなされ、加盟拒否されますが昭和36年三井船舶も欧州同盟に加入します。

昭和28年の輸送比率は四社(郵船・商船・三井・飯野)合計で44% 十三社合計で94%と独占します。昭和31年頃の各船主は自己資本を殆ど持たず、長期融資が無ければ船舶造船は不可能でした。

しかし日本郵船はサンフランシスコ講和条約後の昭和26年にバンコック、インド、パキスタン、NY、シアトルなどの外航航路を再開します。さらにスエズ運河経由の欧州定期航路や豪州定期航路、中南米航路へと戦前のネットワークも復活させ昭和30年代高度成長期に輸出が急激に拡大すると、大型タンカーなど専用船を投入します。

大阪商船は戦後のGHQ主導により財閥解体となり清算されますが、引揚げ事業、国内の物資輸送、九州からの石炭輸送、南洋からの重油輸送、インドからの鉄鉱石輸送などを担い会社再建の道を歩み始めます。

川崎汽船は戦争により自社船舶56隻を失い、残された船は僅か12隻でした。空襲により沈没していた山口県沖の聖川丸を復活させ、K-LINEの主力として復興の象徴となります。K-LINEは戦後高度成長経済の波にのり、航路を増やして昭和35年代には世界各地からの輸入・海上輸送の専用船化を進めます。しかし日本の船舶会社はその後の国際海運の長期低迷により国際競争を失います。

昭和38年海運企業整備臨時措置法(海運二法)により、外航海運150社の内95社を海運集約に参加させて六グループに集約します。

海運二法とは向こう五年に限って①過去の借金金利を棚上げにする。②船舶建造資金の8‐9割を13年返済とし国家資金が貸し出す。③金利は3%まで、超える利子は国が補給する。④市中銀行からの借り入れは6%まで利子補給する。という国家補助でした。 この海運二法により昭和38年に、*日本郵船「日本郵船+三菱海運」 *大阪商船三井船舶「大阪商船+三井船舶」 *川崎汽船「川崎汽船+飯野海運」*ジャパンライン「日東商船+大同海運」 *山下新日本汽船「山下汽船+新日本汽船」*昭和海運「日本油槽船+日産汽船」の六社に合併集約します。

1985年(昭和60年)のプラザ合意で円高・ドル安に見舞われた海運六社の内、昭和海運は1989年日本郵船に吸収され海運五社体制となります。1989年ジャパンラインは山下新日本汽船に吸収されてナビックスライン、その後1999年大阪商船三井船舶との合併で商船三井となります。日本の大手海運業は、日本郵船・商船三井・川崎汽船の三社体制となります。

日本郵船は昭和43年(1968年)北米西洋航路に日本初のフルコンテナ船・箱根丸を就航させコンテナによる定期航路を開始します。在来貨物船では神戸‐名古屋‐東京‐ロスアンゼルス‐オークランド周遊に80日掛かりますが、フルコンテナ船では港湾での停泊日数が30日に短縮され船舶の回転率は大幅に向上します。コンテナ船を豪州航路、欧州航路、NY航路へ拡充、国内では京浜、阪神、神戸にコンテナターミナルを建設して船舶の稼働効率が向上します。

外航コンテナ部門を持つ日本郵船、三井商船、川崎汽船の三社は、コンテナ部門が出資(38%+31%+31%)して2017年 ONE( 0・オーシャン N・ネットワーク E・エクスプレス)を創業、独・ハバクロイド社、台湾・陽明海運との共同サービスを開始します。

船隊規模は161万TEU(20フイートコンテナ換算)で世界6位となり世界最大級の20,000TEU型の超大型コンテナ船46隻を含む220隻の船隊を運航し、世界106カ国を超える広範囲なネットワークを構築します。2022年3月期の純利益は167億ドル(1㌦=112円)で1兆9千億円となり前年比5倍となり、トヨタに次ぐ利益となります。

増益要因はコンテナの積み高増ではなく、増益要因の大半が運賃上昇によるものです。運賃は新型コロナ前の2018年4~6月期と比べて北米航路は2.5倍、欧州航路は4.7倍に上昇しました。2022年6月には親会社三社に株主配当を25億㌦(1㌦130円×25億=3.250億円)支払います。2021年11月と2022年3月にも支払っており、合計約84億㌦で配当性向は約50%となりますが手元資金は1兆円以上と見込まれます。ONEの筆頭株主・日本郵船の2022年3月期の連結純利益は前期の7.2倍の1兆91億円となります。今後の為替ドル高・円安で1円の円安は60億円の経常利益増と見込みます。

商船三井もONEの好調により2022年4-6月連結利益が前年比2.7倍の2857億円となり四半期の最高利益を更新しました。コンテナ船の運賃は依然高止まりしており、10月の中国・国慶節まで堅調に推移しそうです。中国・上海のコロナによる都市封鎖や、ロシアによるウクライナ侵攻もコンテナ船の市況にそれほど影響を与えません。

ONEの好況は何時まで続くのか。商船三井は下期の経常利益見通しを、前年同比53%減の2100億円とします。2023年1-3月期にはコンテナ船運賃はコロナ禍前まで落ち込むと予測します。建設資材の高騰は、外航航路コンテナ運賃の高騰が原因と言われます。