【第490号】令和3年10月

≪  日本電産  永守重信  ≫

永守重信は昭和19年京都の貧しい農家の六人兄姉弟の末っ子に生まれます。小学校四年の理科の時間、コイルに電流を流す実験で一番早くモーターを回すことが出来て先生に褒められます。中学の時父が早世し長男夫婦は高校進学に反対しますが、奨学金で工業高校へ通学し在学中には塾を経営して収入を得ます。大学は学費免除の東京の職業訓練大学校の電気科に入学し、見城尚志講師にモーターを教わります。主席で卒業し見城先生が在籍していた音響機器製作会社ティアックに就職、子会社・山科精器の役員となります。

28歳の1973年7月社員三人と「世界一」を目指して、京都に精密小型ACモーター製造「日本電産」を設立します。前年の1972年2月は札幌冬季五輪の開催、5月に沖縄返還、1973年11月は第一次オイルショックで物価狂蘭の時代でした。

永守重信には世界一に挑戦する気概と気迫、独自の発想と技術力だけの「無」からの出発でしたが、世に無い技術や性能を持った製品を創ることが出来れば必ず道は拓けると信じておりました。1974年米国に事業拠点を設置し1976年米国現地法人・米国日本電産を設立します。IT機器が急速に普及する1978年8インチフロッピードライブ用精密小型ACモーターの生産を開始します。1979年世界に先駆けて実用化したブラシレスDCモーターによるハードディスクの直接駆動方式なくしては、コンピュータの小型化は実現しなかったと云われます。1982年OA機器用精密小型ACモーターの生産を開始、1984年米・トリン社の軸受フアン部門を買収し本格的にM&A(合併・買収)を始めます。精密小型から超大型までのモーターとその周辺機器へ製品領域を拡大します。家電製品、自動車、商業・産業機器、環境エネルギーなどあらいる分野へ進出し、世界№1の総合モーターメーカーとなり世界初、世界最小といった他社に真似のできない製品を開発します。1988年京都証券取引所に上場、1989年シンガポールに現地法人設立、以後タイ、中華人民共和国、ドイツへと全世界に市場を広げ、現在精密小型モーターの開発・製造で世界一のシェアを継続しております。

優秀な技術を持ちながら経営難・赤字に陥った五十数社の企業へ、永守は個人で出資して筆頭株主となります。会長に就任して陣頭指揮で再建に向かい、人員整理は行わず「意識改革」「企業カルチャー」を変えろと指示します。 経営力を高めて再建に成功する五十数社は日本電産のグループ会社となり、グループ総売上の50%を占めます。各々の企業経営者には危機感の共有と創業者精神を忘れるなと引締めます。2001年設立・日本電産シバウラ㈱【1943年発足の芝浦製作所小浜工場は1998年に日本電産の合弁会社・芝浦電産 】の再建には「1年以内の売上高倍増」「営業マン1人当たり訪問件数月100件」と書いたA3の紙が渡されます。月20件だったのを100件に上げれば、引合いは増え、受注件数も増え、売上高は上がる。従業員全員をやる気にさせる、それを徹底する企業カルチャーに変えます。

会社の改革は人の改革なので意識改革から始めますが、会長永守重信の「効率的にスピーディに働く」の実践です。

2018年3月私財百数十億円を投じ学校法人京都学園の理事長になり、2019年4月工学部「機械電気システム工学科」を加えます。電気自動車、ロボット、ドローンなどの未来の産業に欠かせない技術領域を視野に、工学の基礎やモーター技術などを学ぶ京都先端科学大学に名称変更し2019年4月3日一期生の前で永守理事長の訓示が始まります。

「君らは関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)に落ちたんだろう。しかし今日は人生にとってものすごくいい日だ。なぜならこの大学に入って君らの将来、人生は大きく変わる。この大学は京都大を抜くと言っている。この大学は学長、学部長の大半を一新した。これは五十数社を超す企業を買収し、全てを再建させてきた日本電産のノウハウを注ぎ込んだからだ。当面の目標は東京大学、京都大学に次ぐ国内三位の座を基準とする。一流大学を出たら社会で即戦力になれるのか、それは違う。関西では偏差値を指数にして京都大を頂点に私立は関関同立と産近甲龍(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)と続く。日本電産は七千人以上の社員を採用してきたが、最近で一番早く課長・部長に出世したのは龍谷大出身者だ。大学受験の結果なんてビジネスの世界では関係ありません。僕は世の中に足りない人を育てる大学にしたい、今どんな業界でも欲しいというのが英語の出来る学生だ。この大学の大きな特徴はまさに英語教育にありTOEIC 650点以上を絶対目標とする。」 2050年にはロボットは500億台になり、工場は全自動になる。モノを運ぶのは全部ドローン。その時どれ位のモーターが必要になるか計算したら天文学的な数字になった。永守会長が大学経営に乗り出したのはモーター技術者が圧倒的に足りないという危機感からでした。 日本政府と中国は2035年までの脱ガソリン車政策を掲げ、東京都内で販売されるガソリン車は2030年までに電動車に切り替えると発表しました。

日本電産は更なる成長の原動力を自動車に向け電気自動車・ハイブリッド車に用いられるトラクションモーター(E-Axle=バラバラにレイアウトされた、モーター+直流-交流変換回路+減速機をコンパクトに統合したモノ)の需要増大を見込み中核部品・ギアの強化のため三菱重工から三菱重工工作機械の株式を取得すると発表しました。永守は電動化によって自動車はエアコンや洗濯機、パソコンと同じ道をたどる(高性能・低価格)と見ております。

2020年1月東風汽車有限公司総裁(中国)や日産自動車執行役員を務めた関潤氏を日本電産社長に迎えます。関潤(60歳)はC/ゴーン逮捕後の日産自動車ナンバー3の「要の石」でしたが、永守重信と関潤のツートップ経営は EV・電気自動車とモーターを見据えております。

世界は2050年脱炭素社会への動きが加速し、発電電力の半分を消費しているモーターを、高効率モーターにすることで地球温暖化防止に貢献できます。日本電産はEV用駆動モーター市場で2030年世界シェア40-50%を目指します。エンジンと比べモーターは高効率で故障も少なく、電気自動車用トラクションモーターは既存の車両エンジンと変速機の機能を持ち合わせ、同等性能で価格は1/3になります。既存のリチウムイオン二次電池でEV車は2025年にはハイブリット車より低価格になります。  中国上海汽車は2020年7月4人乗り50万円のEV車を発売(家庭用電源で充電、航続距離120㎞、最高速度100㎞)すると、収入の少ない若い女性に人気となり国内販売台数は25万台/年になります。