【第482号】令和3年2月

≪  京都で創業  ㈱村田製作所  村田 昭 (1921年‐2006年) ≫

鎌倉時代に中国宋から茶葉が渡り京都宇治で栽培が始まります。

江戸時代の京都では茶陶器の栗田焼、清水焼は「京焼」と呼ばれます。
明治維新後に茶陶器の需要は低迷しますが、欧米向け輸出品の製造が盛んとなり「京焼」は高く評価されます。
当時の陶磁器は徒弟制度による技術の継承と後継者の養成により、新しい技術開発は進まず京焼は次第に衰退します。

明治22年京都で開催された内国勧業博覧会で保守的な「京焼」は他府県と比べ見劣ります。
明治29年六原公園に「京都市陶磁器試験場」が設立され、製造技術の開発と技術者の養成が行われます。
試験場では原料や釉薬の研究改良、製法の機械化、焼成窯の改良などを進め、従来の手工的方法を改め工場の生産能率を高めて広く陶磁器製作の振興に勤めます。
明治36年の内国勧業博覧会では優秀な成績で京都市陶磁器試験場の評価は高まり、大正8年には全国を指導する「国立陶磁器試験場」に昇格します。

村田昭は京都市立第一高校卒業後、昭和19年に23歳で家業を継ぎ三菱電機の下請工場・村田製作所を創業します。
父の陶器店は清水焼の古里、京都の泉湧寺界隈で細々と輸出用碍子(ガイシ=電線と鉄柱を絶縁する器具)を製作しておりました。
村田は父に顧客をもっと増やそうと進言すると、父からは同業者の仕事を奪うことになる、と反対されます。
村田昭は同業者のやっていない「独自製品の供給」を社是とします。

京都企業の特徴は他企業を真似しない独自性の追求にあり、真似して成功しても誇れることでなく恥である。
基礎部分は先人達が築いたものでも自分の物を作ることに京都企業人の誇りが有るといいます。
大阪商人の「銭の花を咲かす」「儲けの大きさ」が企業の存在価値である。とは大きく異なります。

三菱電機の下請け工場・村田製作所では、軍需用電波兵器レーダー用チタンコンデンサーの製造を開始し、
戦後になるとこのチタンコンデンサー製造はラジオブームに乗ります。

京大・田中助教授の助力を得て、チタン酸バリウムの応用に成功しラジオ市場を席巻します。
戦後GHQ政策の経済恐慌でラジオメーカーは松下電器産業とシャープ以外は全滅しますが、技術の村田製作所は生き残り、
朝鮮戦争の好景気にはラジオ特需で急成長します。
村田昭は通産省の補助金を得てチタン酸バリウムの応用研究を加速させ、1952年村田製作所は米軍規格試験で唯一の認定部品メーカーとなり自衛隊の受注を独占します。

日本が高度成長期になるとラジオに白黒TV、洗濯機、冷蔵庫の「三種の神器」が加わり業績は急拡大します。
業容拡大と共に1955年「村田技術研究所」に巨費を投じ開発体制を増強、世界初セラミック半導体・圧電セラミックスなど新分野へ布石を打ちます。

米国を手始めに世界各国へ販売網を展開し1965年には売上高の1/3が輸出となります。

1970年東証・大証一部上場すると1972年シンガポールに生産販売会社を設立し、1976年シンガポール証券取引所に上場します。
1985年プラザ合意で円高になると、タイ、オランダ、ブラジルなど海外の現地生産へシフトします。
電子部品・セラミックコンデンサで世界市場を制覇した村田昭は1991年長男泰隆に社長を譲ります。

中曽根内閣による国有企業の民営化で、日本電信電話公社は1985年NTTとなり1987年京セラの稲盛和夫が第二電電(DDI)を設立、
ほか二社も長距離電話サービスを開始します。
DDIが黒字となる‘89年3月期、稲盛和夫は携帯電話サービス参加を宣言します。
NTTの移動電話・自動車電話(第一世代・1G)は弁当箱ほど大きく、稲盛和夫の京セラ・半導体の進化で手のひらに収まり「一人一台」時代が来ると説き、DDIの携帯参入が決まります。

村田製作所が通信に携わるのは1980年代に家庭内にコードレス電話が登場する頃です。

1990年半ばになるとデジタル化された(第二世代・2G)移動体通信の時代に入り、デジタル化をきっかけに部品の小型化が一気に進みます。
市場へはNTTドコモ、第二電電、日本移動通信、デジタルホンなどが参入、端末機には家電メーカーも加わります。
競争の激化は携帯電話の一般普及する下地が作られ、簡易型携帯電話サービス「PHS」が始まると、端末機と通話料の安さから若年層を中心に普及していきます。
80年代からの人と人をポイントでつなぐ通信技術は、デジタル化に伴い通信容量を大きくする動きも加速、データも同時に送る技術が開発されます。
2003年11月日本では世界初の(第三世代・3G)移動体通信W-CDMA(無線アクセス方式)時代を迎えます。

3G携帯電話にTV電話機能が加わり、PCと接続し高速データ通信が行われます。
インターネット利用もPCと同じポータルサイトでWEB検索や画像検索、ブログや電子掲示板への投稿もできます。

2010年に4Gへの移行が始まり、現在のスマートフォン時代を迎えます。
2020年代は5GとIoT (アイ・オー・ティInternet Of Things)時代となり、5Gは通信速度で現行の100倍となり高精密な映像や大容量の情報を超高速で伝送できます。
モノがインターネットでつながるIoT が急速に普及し、自動車・鉄道、ロボット・工場の生産設備、社会の隅々に設置されるセンサーなど情報を瞬時に遅滞なく処理する技術が進化します。

携帯電話には200個くらいの電子セラミックスが入っており、一番小さい物は0・6mm×0・3mmの直方体です。
ファインセラミックスは高純度の原量を配合し、焼成するときは精密に温度制御した電気炉を使い、ときには焼成時圧力を加え、錆びない、燃えない、固い、成形しやすい電子部品となります。
村田製作所の積層セラミックコンデンサMLCC(電気を蓄え、電流を整える)は世界シェア首位となりスマホや自動車向けに需要が増えます。

なぜ村田なのか、強さの秘密は企画・設計・原材料・生産設備の自前主義にあります。
半導体や液晶などかって日本企業のお家芸分野は外部から調達した原材料や製造装置を使う「分業」へ移行したことで差別化が難しくなりました。

原材料や生産設備を外注すれば「製造レシピ」を社外に漏らすこととなり結果、韓国、台湾、アジアなどのコスト競争に負けます。
村田製作所は2020年3月まで三年連続で売上高の二割、3000億円を設備投資に掛けて「製造レシピ」は外へ洩らしません。

次世代通信規格5Gに存在感を示し、世界シェア4割の積層セラミックコンデンサMLCCは小型ながら静電容量範囲も広く、ノイズ除去や電源電圧の平準化、フィルタなど様々な回路で使われる携帯電話やTVの高機能化に欠かさない部品となります。
特性は温度による静電容量の変化に違いのある温度特性や、高周波特性が良く、米・アップル社と信頼関係を結び三年先の電子機器の情報を把握しております。