【第475号】令和2年7月

≪ 戦後 の 日本海運 ≫

戦前は世界三位の600万総㌧に達した日本の船舶保有量は、昭和20年8月の終戦に残された船舶は873隻(150万8千総㌧)でした。しかし就航可能な船舶は老朽船の100万総㌧程です。 日本の非軍事化を目的とするGHQは、占領と同時に100総㌧以上の船舶は全て総司令部の指示に従うよう指令し、戦時補償公布も打切ります。昭和21年の対日賠償最終勧告書は、日本の船腹量を極東の貿易に必要な鋼船150万総㌧に限るという厳しい内容です。

日本の海運首脳は日本経済自立の為には日本海運の再建が必要であり、外国航路への就航制限を加えるべきでないと訴えます。

終戦後に米ソ冷戦が激化すると、米国は日本を反共の防波堤にするため日本経済を自立させる方針に変えます。昭和23年日本への物資の供給や民間貿易の許可など対日政策は緩和されます。
昭和21年の海運大手13社は戦後の船腹拡充政策の計画造船で、定期航路で独占し全船の8割を占めます。日本郵船・大阪商船・三井船舶・川崎汽船・飯野海運・日東商船・山下汽船・三菱海運・大同海運・新日本汽船・日産汽船・東邦海運・日鉄汽船の13社へ戦後の昭和22年から昭和37年までの「計画造船」で国家資金の投入は国家により個々の企業へ割当てられます。
昭和25年6月朝鮮戦争が勃発すると世界規模で船腹不足を招きます。昭和26年GHQが外国定期航路の開設を認可すると日本の外航進出は本格化します。

昭和26年9月サンフランシスコ講和条約を前に、米・副大統領バークレーは「日本を再建することは米国の防衛上も必要であり、日本の再建は経済の再建以外になく、日本経済の再建の為には海運の再建しかない。」と訴えます。9月8日講和条約の調印式で日本は待望の主権を獲得します。

昭和26年12月日本郵船の欧州同盟(国際カルテル)加入は認められ、三井船舶は日本郵船の傘下となります。昭和27年日本はIMF(世界銀行)に加盟し国際社会へ復帰し、昭和30年にはGATT(自由貿易)加盟となります。昭和28年2月大阪商船は欧州同盟加入認められますが三井船舶は拒否され、ようやく昭和36年三井船舶は欧州同盟に加入します。

昭和28年には4社(郵船・商船・三井・飯野)合計で44%、13社合計で94%と独占します。

昭和31年頃は各船主の自己資本は殆ど持っていなく、長期融資が無ければ船舶造船は不可能でした。

日本郵船はサンフランシスコ講和条約後の昭和26年、バンコック、インド、パキスタン、NY、シアトルなどの外航航路を再開しスエズ運河経由の欧州定期航路や豪州定期航路、中南米航路へと戦前のネットワークを復活させます。昭和30年代の高度成長期には輸出が急激に拡大し大型タンカーなど専用船を投入します。

大阪商船は戦後にGHQの主導により財閥解体となり清算されますが、引揚げ事業、国内の物資輸送、九州からの石炭輸送、南洋からの重油輸送、インドからの鉄鉱石輸送などを担い会社再建を歩みます。

川崎汽船は戦争によって56隻の船舶を失い、残された船は僅か12隻でした。空襲によって沈没していた山口県沖の聖川丸を復活させK-LINE船隊の主力として復興の象徴となります。
K-LINEは戦後の高度成長経済の波に乗り航路を増やしていきます。昭和35年代には世界各地からの輸入・海上輸送に専用船化を進めます。

しかし国際海運の長期低迷により国際競争が激化し、昭和38年海運企業整備臨時措置法(海運二法)により外航海運150社の内95社が海運集約に参加して6グループに集約されます。
海運二法は ①過去の借金金利を棚上げにする。②船舶の建造資金の8-9割を13年返済で国家資金を貸し出す。③金利は3%となるよう利子補給する。④市中銀行からの借り入れは6%になるよう利子補給する。

昭和38年に六社が合併集約し、*日本郵船「日本郵船+三菱海運」*大阪商船三井船舶「大阪商船+三井船舶」*川崎汽船「川崎汽船+飯野海運」*ジャパンライン「日東商船+大同海運」*山下新日本汽船「山下汽船+新日本汽船」*昭和海運「日本油槽船+日産汽船」となります。

1985年のプラザ合意で円安に見舞われた海運六社のうち昭和海運は、1989年日本郵船に吸収され海運五社となります。1989年ジャパンラインは山下新日本汽船に吸収されてナビックスラインとなります。 1999年大阪商船は三井船舶と合併し商船三井となり海運三社体制となります。

日本郵船は昭和43年(1968年)北米西洋航路に日本初のフルコンテナ船・箱根丸を就航させコンテナによる定期航路を開始します。在来貨物船では神戸・名古屋・東京・ロスアンゼルス・オークランドを周遊するのに80日掛かりますが、フルコンテナ船では港湾での停泊日数は30日に短縮され船舶の回転率は大幅に向上します。豪州航路、欧州航路、NY航路へと拡充し国内では京浜、阪神、神戸へとコンテナターミナルを建設し船舶の稼働効率を上昇させます。

外航コンテナ部門を持つ日本郵船、三井商船、川崎汽船の三社はコンテナ部門が出資(38%+31%+31%)して、2018年ONE( O・オーシャン N・ネットワーク E・エクスプレス)が誕生します。
ONEは独・ハバクロイド社、台湾・陽明海運と共同サービスを開始します。

国内沿岸には乗客、乗用車、貨物トラック、商品乗用車を積載するフェリー、RORO船、コンテナ定期航路があります。
*川崎近海汽船 *商船三井フェリー *太平洋フェリー *関西汽船 *名門大洋フェリー *新日本海フェリー *ダイヤモンドフェリー *ジャンボフェリー *四国開発フェリー *阪九フェリー *ダイヤモンドフェリー *オーシャントランスフェリー *宮崎カーフェリー *近海郵船物流 *川崎近海汽船 *日本海運 *商船三井フェリー *栗林商船 *日藤海運 *鈴与海運 *トヨフジ海運 *フジトランスコーポレーション *井本商運 *プリンス海運 *マロックス *大王海運 *八興運輸 などです。

JR北海道新幹線の札幌延伸により函館‐札幌間が開通すると、函館‐長万部間のJR函館本線は第三セクターに移管されるでしょう。この区間(2019年営業赤字65億円)にJR貨物は運行出来るのでしょうか。