【第496号】令和4年4月

 ≪ DX / デジタルトランスフォーメーション ≫

DXとはDigital+Transformation(変革)を組み合わせた言葉です。情報技術を使って企業が仕事のやり方や中身を大きく変えて競争力を高めることを指します。

2004年スウェーデンのE・ストルターマン教授が提唱しました。Xが使われるのはトランスフォーメイションのトランスが「交差する」という意味のXで表される為です。デジタル化やIT化とDXのなにが違うのでしょうか。DXは単に最新技術を使うだけでなく、それにより企業が商売や事業のやり方を大きく変え、ビジネスに新しい価値をもたらすものです。

スマートフォンの普及によって宅配食事サービスのウーバーイーツが誕生、オンライン会議システムZoomでテレワークが加速することもDXによります。AI・人工知能やスマホなどで多くの情報を送りあう5G・第5世代移動通信システムが活用できます。

DVDの郵送レンタルが発祥の米動画配信大手・ネットフリックスはデジタルの進化に合わせて業態を発展させてきました。今では全世界で話題作を製作し、客がドラマのどこで見るのを止めるかといった緻密なデータを集め、それを基に客が観たいドラマを作ります。

ギター製造・販売大手の米・フェンダーは客にスマホの動画でギターの扱い方を解説しています。どの動画が注目されているかを分析し、客の多くは調律が出来ずに演奏を諦めていることを発見します。そこで調律の仕方を伝えるようにして客をつなぎ留めました。

道内で進むスマート農業も人工衛星や5Gを活用したロボットトラクターや、高性能ドローンにより高齢化と人手不足を解消しようとしています。一方DXへの理解は十分に広がっていません。帝国データバンク札幌が最近行った調査では「DXの意味を理解し取り組んでいる」と答えた道内企業は12%で、社内で人材やノウハウが不足していることが主な理由でした。日本総研・田中マネージャーは「事業を変革するDXは成果が出るのに時間がかかるが、企業が顧客にどのような価値を提供できるかを考えるきっかけになる。」と言います。

2018年経済産業省のDX推進ガイドラインでは「企業は激変するビジネス環境に対応すべく、最新技術を活用して業務改善を行い競争の優位性を確立すること」と定義します。

物流業の抱える課題は ①EC市場拡大に伴う小口配送の急増 ②人口減少など労働力不足 ③従業員への負担と責任の増加

課題①②③により物流業界のバックオフィスの分野ではDXが導入されます。しかし他の業務でもDXを実践することで業務の効率化が図れる現場が多数あります。

DX推進が必要な理由と導入しやすい領域は

A・顧客情報や配送状況のデータ化により在宅時間を割出して再配送を削減する。

B・物流業務の機械化・自動化で人手不足を解消する。

C・倉庫管理のシステム化でリアルタイムの在庫・入出荷状況を把握し、欠品や過剰在庫を抑える。

D・勤務状況の管理をデジタル化することで、管理担当者が個々のスキルで最適人員配置する負担を補う。AIを勤務状況の管理に活用すると、自動的に勤務シフトを作成することが可能となります。

ゼネコン大手の竹中工務店は、工事の人員配置計画作りを経験に頼った手法からデータ主導に変えます。図面から作業員の勤怠管理まで全ての工事データを一括で解析し、二週間ほど掛かっていた配置計画を瞬時に作成します。

DXで工事の全データを自動解析し、最適配置、人手不足に備えます。建設業は3K(きついK・汚いK・危険K)と言われ若者から敬遠されがちで、2024年改正労働基準法での建設業の時間外労働上限は45時間/月に制限されます。高齢化による人員の自然減と労働時間の制限で、実質2/3の人員で今と同じ売上高 1兆円/年の仕事を続けなければなりません。

運輸業の2024年改正労働基準法でのトラックドライバーの時間外労働は、月間ではなく一年間の合計で960時間 に制限されます。

竹中工務店が数年内に実現を目指す建設工事の人員配置計画の自動化は、人工知能・AIに建設工事の情報を入力することから始まります。竹中は国内に約8000人の社員を抱え、鉄筋や鉄骨を組むなど現場を支える協力会社を含めると3万人以上が年間400~500の新築工事現場で働きます。通常2~3年先のプロジェクトを見通して、人員配置計画を練りますが人員に余裕がなければ新規受注が出来ない為、配置計画は経営の根幹となります。しかし人員配置計画作りは工事の内容が様々な状況にあり、複雑なパズルのように難しいものです。

夜間工事や人員の技量など考慮すべき変数があまりにも多すぎます。ロボットなどの導入が進みますが最早ベテラン社員の経験則では限界です。新システムは米アマゾンのウェブサービス・AWSのクラウド上に独自に開発しました。自前のサーバーで運用していた200超の業務ソフトを移行し、運用コストを25%削減します。核となるのが「データレイク」という技術で、業務ソフトごとの多様なデータを異なる形式のまま活用できます。新たな手法では業務ソフトから工事の種別や面積、工期、場所、期間、勤怠など50項目ほどの情報を自動的に「データレイク」に吸上げ整理し、新規プロジェクトでの最適解を探ります。

建設業界のDXでは仮想空間に工事現場を再現する「デジタルツイン」と呼ばれる取組みがあります。プロジェクトの状況が3次元でパソコン上に再現し、品質やコスト、時間などをシュミレーションします。また現場に行かなくても工事の進捗を確認できます。従来は2次元の図面を引きそれを3次元に変換しておりましたが、近年は最初から3次元で設計する技術や、ドローンで現場の3次元データを取得する技術が広がっています。

日本財団と商船三井は、苫小牧‐茨城県・大洗間でフェリーの無人運転実験を行いました。実際に同航路を運航する「さんふらわあ しれとこ=11、410㌧ 全長190m」に自律操船制御システムを組み込んで実施しました。フェリーは2022年2月6日夜に苫小牧港を出港し、約750㎞を航行して7日夕方に大洗港に到着しました。航行時間は約18時間で通常の商用運航とほぼ同じでした。風向きや潮の流れ、船の位置情報から最適な航路を検出し、センサーで周囲の漁船を検出して衝突を回避した長距離、長時間の無人運航は世界初となります。

万が一に備え船員は乗りましたが、離着岸も自動で行い大きなトラブルもありません。日本財団では「船員が不足し高齢化になっている。また事故の8割は人為的ミスで起きており、無人化は社会課題の解決につながる。」と言います。