【第492号】令和3年12月

≪  資生堂  ≫

♪ドルチエ&ガッパーナのその香水のせいだよ♪

「香水」で瑛人は2020年12月31日NHK紅白歌合戦に初出場します。瑛人のヒット曲「ドルチエ&ガッパーナ」のDOLCE&GABBANA社はイタリアのラグジュアリーファッションブランドです。

資生堂は福原有信が18歳で幕府医学所に入り西洋医学を学ぶことから始まります。二年後の1867年(慶應3年)薬剤師として同所に雇われ、1871年(明治4年)に海軍病院薬局長となります。 翌1872年(明治5年・23歳)官職を辞して民間初の洋風調剤薬局「資生堂」を銀座で開業します。福原は医薬分業を唱えて明治21年日本初の練り歯磨き、明治30年に化粧水を発売し大正6年には化粧品部を独立させて今日の資生堂の基礎を作ります。

昭和時代の資生堂は化粧品の再販価格制度(生産者が卸小売りに定価販売を指示する)に守られ二万店を超える専門店と百貨店の対面ビジネスが主流でした。1990年代には規制緩和の流れやバブルの崩壊に伴う消費者の低価格志向を受け、セルフ型販売を強めて量販店の市場開拓に乗り出します。

2006年創業時からの社章「花椿」を商品名とする日用品「TSUBAKI」を発売します。有名女優を起用、50億円の宣伝広告費を投入して化粧品と日用品の販促を一本化します。ドラックストアの売上が国内全体の4割を占め、高価格帯の「クレ・ド・ポー・ボーテ」から低価格帯の「専科」まで商品領域は縦に広がります。

しかしこれは初代福原社長の経営哲学である、イノベーションあふれる商品力、豊かな感性の提供、グローバルに通用するブランド力、は規模を拡大する資生堂の戦略によって薄まります。数百円の日用品から一万円台の化粧品まで品ぞろえが広がると「SHISEIDO」ブランドが曖昧になります。そこで資生堂は社外から魚谷雅彦(2011年12月日本コカコーラ㈱取締役会長を辞任)を2013年4月資生堂マーケティング統括顧問に迎えます。2014年6月代表取締役執行役員社長に就任し、資生堂ブランドと日用品ブランドの再生が始まります。

世界市場5位の資生堂・魚谷雅彦社長は、2016年6月イタリアのドルチエ&ガッパーナ社とフレグランス(香水・化粧品など)、メイクアップ、スキンケア商品の開発、生産及び販売に関する独占グローバルライセンス契約を結びます。DOLCE&GABBANA (D&B)ブランドは1985年ドメニコ・ドルチエとステファノ・ガッバーナの二人によって、イタリアのミラノでスタート。ラグジュアリー(豪華)ファッション市場で国際的に高い評価を受けます。日本では2016年からフレグランス、2019年からメイクアップコレクションを展開し国内で着実に店舗数を増やします。

2018年11月上海でコレクションショーを予定し、宣伝の為にD&Gが製作公開した動画が人種差別であるとの批判が高まります。宣伝用動画は、東洋人モデルがピザなどイタリア料理を箸で食べにくそうに格闘する姿を映し、箸を木の棒と呼びナイフとフォークで上手く食べられないことを揶揄するようなナレーションが入っておりました。これを批判するユーザーにD&G社は、中国人は無知で汚く臭いマフィアだ、などと返信します。

中国のEC(電子商取引通販)からD&Gの製品が削除され、空港免税店からも撤去される大騒動となります。2016年にD&G社とライセンス契約を結んでいた資生堂は2021年12月末にフランスを除く市場でライセンス契約を終了すると発表します。  D&Gの中国市場ボイコットと新型コロナ感染症拡大に伴う市場変化で、350億円の特別損失を計上し2020年資生堂は七年振りの赤字決算となります。

化粧品で資生堂ブランドを付けるのは高級化粧品・SHISEIDOだけで、それ以外の「エクシール」や「マキアージュ」などの化粧品、日用品からは資生堂ブランドを外しそれぞれのブランドで販売します。ヘアケア商品TSUBAKIや男性用Unoは連結売上高の10%弱(400億‐500億)に留まり、国内売上高はピークの半分以下となります。2021年3月TSUBAKI、SENKA、Unoのブランドを外資系投資ファンドに売却します。 2021年4月D&Gとのライセンス契約も解消、香水やメイク化粧品からの撤退を進めて利益率の高い高価格帯スキンケア領域の比率をあげます。

2021年1月―6月期はコロナ・ワクチンの接種がすすむ中国・欧州の外出機会の回復で、コロナ前の水準に需要は回復し、香水が主流の欧州とメイク中心の米国で、高価格帯のスキンケア化粧品の販売増と若者向け商品で新たな購買層を獲得します。国内販売が伸び悩むのはインバウンドの海外旅行者が戻らずに落ち込みが続いており、マスクをしての外出では口紅が売れません。ワクチン接種で化粧品の販売が戻ると期待し、ヘルスケア商品「TSUBAKI」など日用品事業の売却で高価格帯の化粧品に集中する戦略( 平成以前のカウンセリング型の高価格化粧品 )に軸足を移します。 2021年1月―6月は二期ぶりに営業利益230億円となり、2023年には高級スキンケアの販売構成比を2019年の6割から8割に引揚げ1500億円の営業利益を目指します。

魚谷雅彦氏は同志社大学文学部を卒業し世界で働くには、と商社を目指しますが文学部卒に採用枠はありません。商社以外の留学制度のある企業を探してライオン歯磨㈱へ入社します。日中は営業マンとして働き夜間は英会話学校へ通います。29歳で社内試験に合格しコロンビア大学へ留学、コロンビア大でMBAを獲得して以降マーケティング業務を中心に管理職や取締役などを歴任します。シティバンク、クラフトジャパン・コカコーラの管理職を歴任後、2013年業績が2010年以降低迷する資生堂のマーケティング統括顧問に就任します。 魚谷は ①2010年買収し売上が低迷する米国企業や、国内外の不採算子会社・工場の閉鎖 ②2015年の消費増税などで売り上げが伸び悩む状況を打開する為、資生堂が卸や小売に納品する時点ではなく消費者の手元に渡った時点で売上を計上する。③美容部員が売込む「プッシュ型」から問い合わせを待つ「プル型」販売の仕組みに移行、問い合わせにより顧客のニーズを吸い取り、お客様が求める商品を如何に作るかという視点に切り替えます。

国内グル-プ社員の女性比率80%、女性リ-ダーが全体の30%の資生堂に、2021年1月 史上二人目の女性代表取締役常務・鈴木ゆかり氏が就任します。 鈴木氏は1985年入社、新ブランドの立ち上や海外でのSPA事業など、数多くの新規事業に提わり成功に導きグローバルブランド「クレ・ド・ポー・ボーテ」躍進の立役者でもあります。